正常という思い込みからの脱却
言語聴覚士の奥住啓祐です。
今回も前回のブログの続きです。
これまで何度か
現在の○○機能=本来の○○機能 − α(?+?・・)
この式を使ってアセスメントについて書いてきました。
脳血管疾患により舌に麻痺を生じた際は
現在の舌機能=病前の舌機能-麻痺-α(?+?・・)
と簡易的に仮定します。
前回の記事では麻痺以外の影響因子αに関して
α =低栄養の場合と
α =筋出力抑制の場合(後日説明します)とでは
追加する介入方法が全く異なること。
またα 因子を効率よくしるために
「正常な運動機能を成立させている要素」と
「身体法則」を知る必要がある。
と話してきました。
身体法則についてはまた次回以降に譲るとし、
今回からは
「正常な運動機能を成立させている要素」の
「正常」について考えてみましょう。
正常ってなんでしょう。
正常とはいっても皆さんご存知の通り
加齢に伴って変化する機能もあります。
また加齢に伴う変化といっても男女差もある
しかし加齢に伴う変化以外にも
私たちが持っている本来の機能に影響する因子は多くあるようです。
それを考える前に
私たちが持っている大きな思い込みに気付く必要があります。
面白い研究をみつけたので研究結果を通して考えてみましょう。
健常者に対し、簡便に出来る水飲みテスト(具体的な方法は論文参照)を用いて
健常者に誤った嚥下パターンをもつ者がどの程度存在するか検討を行ったそうです。
研究の結果、誤った嚥下パターンを持つ者の年代別割合は
4~9歳 68.3%
10~19歳 42.7%
20~29歳 41.4%
30~39歳 36.3%
40~49歳 36.0%
50~59歳 49.2%
60歳以上 56.8%
数字だけ見るとこんなに多いのかと驚きます。
論文では
「各年代3割以上誤った嚥下パターンを持つ者のがいることから、小児期に誤った嚥下パターンを持つ者は成長するにつれ自然に正常な機能を獲得する場合もあるが、約3割は誤った嚥下パターンのまま成長し、加齢していくと推察された」とあります。
さて各年代、最低3割の方が誤った嚥下パターンを持つと聞いたとき
まさか自分がそうだとは思わないでしょう。
私自身、機能性構音障害を指摘されるまで
まさか自分の発音の仕方が間違っているなんて思いもしませんでした(笑)
それでは「誤った嚥下パターン」を持っている方は
どの様な症状に悩んでいるのでしょう。
研究では以下の問題が挙がったそうです。
・口呼吸
・喉に詰まっている感じがする
・食事中にむせやすい
・飲み込み時に鼻に入る
・絞扼反射が強い
・義歯等装着困難
・固形物が飲みにくい
単に「誤った嚥下パターンをしている」というだけではないようです。
ということは例えば脳血管疾患により摂食嚥下機能に問題を抱えている方の場合
現在の○○機能=本来の○○機能 − α(?+?・・)
これまではα因子について考えてきましたが
セラピストの勝手な思い込みで
「本来の機能」=正常と安易に考えるのは疑問が出てきます。
現在の○○機能=本来の○○機能 − α(?+?・・)
どこの機能が問題なのか
それに対してどの様なα因子が影響しているか
ばかり突き詰めるのではなく
俯瞰してみることも必要
私を含め
人には各年代に応じた発達課題があります。
単に年を重ねたからといって
一般的に健常者と言われる方であっても
小さい時に達成すべき発達課題をクリアしていない可能性もある。
発達といっても様々で
私のように発音の場合もあれば
摂食嚥下も発達
身体機能、愛着などいろいろ
仮にもし
私がSTの大学にいっておらず
機能性構音障害だと発見されず年をとり
あるとき脳梗塞で舌に麻痺を生じたとすると
現在の○○機能=本来の○○機能 − α(?+?・・)
担当してくれた言語聴覚士さんは
本来の舌機能をどの様に捉えるでしょう。
またあなただったら、
どの様に現在の機能を推測するでしょうか。
脳梗塞により舌に麻痺が生じたい
現在の○○機能=本来の○○機能 − 麻痺-α(?+?・・)
本来の機能=獲得された機能−加齢に伴う変化−β(?+?・・)
と仮定し
さらに病前に誤った嚥下パターンだった場合
現在の舌機能=本来の舌機能 (=獲得された機能-加齢に伴う機能低下-β(?+?))− 麻痺による機能低下-α(?+?・・)
となるでしょうか。
今回の記事を通して
言語聴覚士の方の臨床にちょっとでも良い貢献ができたら光栄です。
また次回に続きます。
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言語聴覚士のためのプロフェッショナルSTセミナーを今年も開催予定です。
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