~口腔機能の探求~ 言語聴覚士 奥住啓祐

20歳で口蓋化構音が見つかり試行錯誤しながら克服。口腔外からの舌調整法やS-R touchを通して口腔顔面の持つ可能性を探求してます。 特技は瞬間発音調整、楽器演奏時の舌の動きの瞬間調整。

正常という思い込みからの脱却②

言語聴覚士の奥住啓祐です。

さて今回も過去の記事のまとめ+αと

今回の内容「正常という思い込みからの脱却」について書いて行きます。

 

文章では読んでいて内容が難しいと感じる方もいるかもしれませんが

STセミナーでは自分の体を通して一緒に理解しながら実践練習を行っていきます。

 STセミナーを受講された方は、その時の資料やメモしてる内容を振り返りながらブログを読むとより理解が深まると思います。

 

日々の評価や訓練の際

あなたの五感を通して飛び込んでくる無数の情報

評価、訓練の際にはそれらを体系的に関連づけていき

ひとつひとつその場で原因分析を行って行きます。

 

何度も出てきてますが

脳梗塞により舌に麻痺が生じており

摂食嚥下機能に問題があるとしましょう。


現在の○○機能=本来の○○機能 − 麻痺-α(?+?・・)

 

ここで本来(病前)の機能=正常ではなく
本来(病前)の機能=獲得された機能−加齢に伴う変化−β(?+?・・)
と仮定し


 
さらに病前に誤った嚥下パターンを獲得していた場合

(要するに病前から摂食嚥下にとって不利な条件を持っていた場合)


現在の舌機能=本来の舌機能 (=獲得された機能-加齢に伴う機能低下-β(?+?))− 麻痺による機能低下-α(?+?・・)

のうち「獲得された機能」の項目に追加されます。

 

思考トレーニングとして少し抽象度を高くし、

なんの為の舌機能なのかを明確にしましょう。

 

たとえば

現在の食塊形成能力=

とするとどの様な仮説式が出来るでしょう。

(抽象度に合わせて=以降の項目を入れないと長くなってしまいます)

 

また抽象度を少し下げて

現在の常食摂取における食塊形成能力=

とした方が臨床につながりやすいでしょうか。

 

あくまでも思考トレーニングです。

 

飛行機の座席に座り

ふと外を眺めると

離陸するとともに住んでいる場所が小さくなっていき

どんどん違う見え方になっていく。

 

まるで鳥が雲一つ無い大空で

力強い日の光をうけ

自由に高度を上げ下げしながら

そのたびに変化してゆく地上を眺めるように

 

摂食嚥下障害や構音障害というものを

様々な抽象度から立体的に捉えると

臨床での考え方がシンプルになってきます。

  

食事の際に「むせる」という事実から

 

どんな情報を集める必要があるのか

実際に摂食嚥下における先行期口腔期(準備+送り込み)、咽頭期、食道期

それぞれに関して何が主要な問題なのか

その中でも緊急度が高い問題

その方にとって重要な問題は何なのか

そしてその問題の背景は?

いろんな視点から幅広く、そして深く掘り下げながら考えて見ましょう。

 

ちなみにその他、βに入る嚥下阻害因子として

頸部前面筋の機能に影響を与えるような、頸椎の何らかの疾患が既往にある場合などは

βに加わる可能性があります。

 (参考)

嚥下障害に対する理学療法評価の重要性について

その他にもいろいろ論文を探して見ましょう。

 

また麻痺以外の影響因子αに関して
α =低栄養の場合と

α =何らかの代償による影響の場合と
α =筋出力抑制による影響(また後日説明します)の場合とでは
追加する介入方法が異なることはイメージしやすいでしょう。

(これらの因子はβにも入る可能性があります)

 

この式に様々な因子が入ることで

「何に対して同時進行でアプローチすべき」なのか

そして「チームとして誰が何に対してアプローチすべき」なのか

さらに「どの指標を効果判定とする」のか

以前よりも具体的に複数見えてくるのではないでしょうか。

 
過去の記事で、
αやβ 因子を効率よく把握する為には

「正常な運動機能を成立させている要素」
「身体法則」を知っている必要がある。
 
と話してきました。

 さて今回も
「正常な運動機能を成立させている要素」の
 「正常」について考えてみましょう。
 
健常者でも加齢に伴う機能低下がある
また小さい頃に誤って獲得した可能性のある機能もある
 
 正常ってなんでしょう。
私自身、大学2年生の時に機能性構音障害があると分かったのですが
はたして私の口腔機能は正常なのでしょうか(笑)
 
そもそも正常を知る利点は
何か問題が生じている時に比較する事で
どの様な違いがあるのかを把握出来る事だと思います。
 
 正常ってなんだろうと文献をいろいろ調べていると
 
 
(参考論文:正常動作の神経機能)
 
 筆者は学生に以下のように説明しているとのこと。
1)健常者の動作、いわゆる正常動作は同一動作であってもバリエーションがある。
2)同一動作にはバリエーションがあるといっても規則性がある。
 
また以前も記事で引用させて頂いたレポートに冗長性という言葉がでてきます。
 
(参考レポート:整形疾患という問い(2))

http://researchmap.jp/?action=cv_download_main&upload_id=82057

 「たとえば健常な人間の場合、通常歩行に加え、いくつもの歩行パターンが可能であり、ただやらないだけで潜在化されている選択肢が無数にある。これら選択枝の系列が、行為可能性としての冗長性に該当する」
 
例えば摂食嚥下障害の代償手段において頸部回旋嚥下がある。
頸部を回旋させ麻痺側の筋の空間をつぶし
非麻痺側を積極的に使って嚥下をする事で誤嚥のリスクが減る方がいるが、
健常者であれば頸部正中であれ、左右へ回旋していても問題無く嚥下が出来る。
(誤った嚥下パターンを獲得していて、むせる方がいるかもしれませんが)
 
誰かに思いを伝えるのに
高い声で伝えることもできれば
かすれた声で伝えることも
音を歪ませて伝えることも
実際にはやらないだけであって、潜在的には実行可能ですが、
 
 何かしらの原因で障害が生じたさい
新しく出会った体を通して
その方なりに環境に適応しながら
目的動作を行っていく過程で
冗長性は犠牲となっていくのかもしれません。
 
「痙性や緊張を単に軽減させたり、連合反応を抑制することに焦点があるのではない。重要なのは、課題を通じて背後にある冗長性ネットワークがどう変化し、それをどうすれば拡張出来るかを見極めることである」(上記レポートより)
 
私の場合は
機能性構音障害が見つかっておらず
言語聴覚士という仕事についていなかったら
正常かどうかは別にして、困っていなかったかもしれません。
 
ただし将来的に何かしら条件が加わることで
(仕事や疾病など)
それが問題として顕在化していた可能性はあります。
 
 実際に脳血管疾患により呂律不良感を訴える方を前にした時に
麻痺の所見があれば
もちろんそれによる影響はあるのだが
 
それ以外にどの様な背景があるのか
なにか影響因子がある場合は
さらに掘り下げ、
冗長性を引き出せるよう介入していきたい。
 
 
今後もいろんな方面から学んでいき
何かしらの巡り合わせで出会った方に
よいサポートが出来るよう学び続けていきたい。
 
ちなみに最近の個人的なトピックスとしては
・自律神経機能における血圧変動と退院後のリスク管理
・睡眠時の体動
です。
 

今回の記事を通して
言語聴覚士の方の臨床にちょっとでも良い貢献ができたら光栄です。
 
また次回に続きます。
 
 
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今年も全国で
言語聴覚士のためのプロフェッショナルSTセミナーを今年も開催予定です。
5年目の今年はどのような内容になるでしょう

 

(ST受講者の声 13年目 言語聴覚士)
私自身、疲れてくるとむせたり、飲み込みにくく舌骨上筋群の硬さが辛かったのですが、2日間のセミナーが終わる頃には、硬かった緊張も緩み、楽になりました。
臨床では以前から、〇〇が出来ないから〇〇の訓練をすることに疑問を感じていました。セミナーを受け、少しは胸から上だけでなく、体全体を見れるようになったのでは。体の事に関心がもてたのでは?PT.OTとも話ができるかな。
また効果が短時間で出たことは驚きました。人数もちょうど良く、先生が丁寧にまわって教えてくれたこと、先生のスピリチュアル的な話が聞けたことも良かったです。

 

(6年目 言語聴覚士
セミナー受講前は筋を触ることに抵抗があった。PTさんと患者さんについて議論する自信がなかった。身体と声、嚥下の分析ができないことなど困っていた。
今回、まず「考え方」の練習をいっぱい出来たことで、評価していく視点が明確になった。また効果を”自分の体”で実感出来たことは期待以上でした。

 

[ 9年目ST]
構音障害のある方に対して、教科書的な訓練を行っていましたが、良くなりきらない方が多く、あまり手応えを感じにくい状態でした。
今回のセミナーは自身の考え方ががらりとかわる内容でした。すぐにでも臨床に試したい内容で明日からの仕事が楽しみになりました。
自分自身の声や姿勢が変わった事、自身の腹部を意識できた事、もっと体の動きや変化に意識を向けなければならないこと、視点が変われば様々なアプローチがあることなどの事を実感できました。
 
奥住啓祐
言語聴覚士 メンタルヘルス
 
全国でセミナーや講演も実施
28年度
言語聴覚士の為のSTセミナーを
福岡、東京、愛知で計12回 (摂食嚥下編、呼吸発声編)
自治体担当者セミナー (ストレスと自律神経の見える化
社会福祉法人の職員向けセミナー4回 (摂食嚥下障害、失語症
パーキンソン病 家族会での講演 (パーキンソン病と摂食嚥下障害)
・九州中央病院 スマイルネットワークでの講演 (訪問ST、摂食嚥下障害について)
・中国 上海市の方に対するセミナー (疾病予防、摂食嚥下、自律神経調整など)